春萱に氷ノ山その氷のひかり
まずは、句の読み方を。「はるかやにひょうのせんそのひのひかり」。「氷ノ山(ひょうのせん)」という珍しい読みの名の山は、ずいぶんと有名らしいが、掲句ではじめて知った。この山の名をこよなく愛するという作者によれば、「兵庫、鳥取二県の接点にそびえる高岳で、厳冬のころは風雪に荒(すさ)ぶ険しさがあるゆえ、この名が付いたにちがいない。人界から離れて、きびしい孤高を保っているかのような山の名である」。調べてみたら、中国山脈の山のなかでは、大山についで二番目の高さだという。早春。名山を遠望する作者の周辺には、すでに「萱(かや)」や他の野の草が青々と芽吹いており、本格的な春の訪れが間近いことを告げている。だが、彼方にそびえ立つ氷ノ山にはまだ雪が積もっていて、厳しい「氷(ひ)のひかり」を放っている。このコントラストが、非常に美しい。このとき、作者に見えているのは、おそらく山頂付近だけなのではあるまいか。場所にもよるだろうが、絵葉書の富士山のように、すそ野近くまでは見えていないのだと思う。したがって、ますますコントラストが際立つ。「ひ」音を畳み掛けた手法も、実景そのものにくっきりとしたコントラストがあっての上での、必然的なそれだろうと読んだ。
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